東京都では、東京と他の地域が、それぞれの持つ力を合わせて、共に栄え、成長し、日本全体の持続的発展へとつなげていく「共存共栄」を目指しています。
そのために、東京都では、東京だけでなく他の地域の発展にも結びつく様々な施策に、各自治体と協力して取り組んでいます。その取組の一環として、全国の自治体へ直接訪問させていただき、東京都との連携や政策全般にわたる意見交換を積極的に行っています。
2月6日(木)に長野県を訪問させていただきましたので、その様子をご紹介します。
東京から長野駅へは北陸新幹線はくたかで約1時間30分で到着します。
新幹線が長野県内に入ると車窓から雪が見え、JR長野駅を降りると植え込みなどに雪が積もっていました。駅前のバス乗り場にはスキー・スノーボードを抱えた外国人観光客の姿が多数あり、長野県のインバウンド人気を実感しました。
まずは視察のため、川中島水素ステーションに伺いました。
川中島水素ステーションは、長野県企業局の出先事務所の1つである北信発電管理事務所内に位置します。
▼北信発電管理事務所の庁舎前に水素ステーションがあります▼
長野県企業局は長野県が経営する公営企業であり、長野の豊富な水資源を活用した電気事業・水道事業で県のライフラインを支えています。
電力事業では、県内25か所の水力発電所で年間約4億2千万kWhを発電しており、これは長野県の世帯数の約13%に相当する約11万世帯分の電力量になります。
長野県は、千曲川決壊などにより死者23名を始めとする甚大な被害をもたらした令和元年東日本台風を機に、都道府県として初となる「気候非常事態」を宣言し、「2050年二酸化炭素排出量実質ゼロ」(2050ゼロカーボン)を決意しました。電力事業においても、2050ゼロカーボンに向け、老朽化した発電所の改修や新規の発電所建設を進め、発電時にCO2を排出しない水力発電の供給拡大に取り組んでいます。
水道事業では、松本市・塩尻市・山形村へ水道用水を供給する用水供給事業と、長野市・上田市・千曲市・坂城町の約19万人を対象に需要者の蛇口まで水道水を供給する末端給水事業を実施しています。用水供給と末端給水の両方を実施している都道府県は全国で長野県だけとのことです。
長野県企業局では、将来の事業の可能性を見据え「水素ステーション実証モデル事業」を実施しています。
平成31(2019)年4月から県内初となる水素ステーションを整備し、水素の生成と利活用を通じて再生可能エネルギーの安定供給や災害時の電源供給等について実証実験を進めています。
長野県の水素は、水力発電した企業局の電気と川中島の地下水を活用した100%再生可能エネルギー由来のグリーン水素です。まさに長野県の地域特性を活かした事業と言えます。
▼水素の作り方▼
実際に水素ステーションの中身を見せていただきました。
▼こちらで水素を作ります▼
水素発生器で川中島の地下水を電気分解して水素を生成します。1日あたり燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle = FCV)1台分の水素を生成できます。
生成した水素は水素圧縮機に送られ、ピストンとシリンダーにより2段階で圧縮されます。
▼水素圧縮機です!▼
水素は地球上で最も密度の小さい気体であるため、燃料として実用に必要となる量の水素は1気圧下では膨大な体積になります。そのままでは輸送・貯蔵等に膨大なスペースを要するので、水素を圧縮し体積を小さくする必要があります。
こちらの水素ステーションではFCVに充填できるよう、82メガパスカル(約800気圧)もの高圧をかけて水素を圧縮します。圧縮された水素は、蓄圧器(水素貯蔵タンク)に貯蔵されます。
▼横倒しになったタンク3本が3段で置かれています▼
こうして生成された水素を、長野県では公用車として導入したFCVに水素ステーションから直接充填して利用しています。
水素をFCVのタンクに急速に充填すると断熱圧縮により高温となるため、あらかじめ水素を-40℃まで冷却してからFCVに充填します。
▼ここから車に充填します▼
▼水素充填中!▼
長野県が導入したFCVの水素の充填時間は約3分、航続距離は約850kmで、長野県庁から県内の山間部にある発電所やダムへの往復も1度の充填で十分な性能です。また、長野の冬の山道でもガソリン車と同じように走れるとのことです。
また、長野県企業局では水素の生成・利活用に加え、水素の啓発活動としてユニークな取組も実施してきました。
令和元(2019)年には、世界的ロックバンド「U2」や、人気ロックバンド「LUNA SEA」のライブで、川中島水素ステーションで生成した水素を用いてFCVで発電した電気を演奏の電源に提供する「水素コンサート」を実施しました。
また、B.LEAGUE「信州ブレイブウォリアーズ」と協力して、水素エネルギーのPRや、FCV及び水力発電所からの電力供給を行う「CO2フリーゲーム」など様々なイベントを開催してきました。
東京都も水素の利活用に取り組んでいますが、今後の普及に向けてはコストの高さが課題とされます。
これまで漠然と水素の普及が進めばコストも下がるものと考えていましたが、水素の圧縮や充填時の冷却など、化石燃料と比較してコストがかかる部分を具体的に知り、エネルギー問題の難しさを感じました。
高圧に耐え得る機器の製造コストや、安全面から設備のメンテナンスを高頻度で実施する必要があることも高コストの要因とのことです。
再生可能エネルギーの必要性が増す中で、水素の普及・実用に向けてコストにどのように対応するかが非常に重要であると思いました。
お忙しい中大変丁寧にご説明いただくとともに、視察後に長野駅までFCVに同乗させていただき、誠にありがとうございました。
FCVに乗るのは初めてでしたが、とても静かで乗り心地が良かったです。
長野県企業局:https://naganoken-kigyokyoku.jp/
長野県企業局PRキャラクター<水望メグ>オフィシャルサイト:https://naganoken-kigyokyoku.jp/mizumochi_megu/
視察を終え、昼食はJR長野駅のお蕎麦屋さんで信州そばをいただきました。
▼シンプルながらも奥深い味わいがあり、とても美味しかったです!▼
昼食をいただいた後は、長野県の創業支援拠点である、信州スタートアップステーション(SSS)を訪問しました。
SSSは、長野市と松本市の2か所に開設されていますが、今回は、長野駅からバスで5分ほどの長野市内の施設にお邪魔し、創業支援の内容等についてお話を伺いました。
▼信州スタートアップステーションnagano▼
信州スタートアップステーション(SSS)は、新たな価値を産み出す創業・新規事業創出、事業継承を支援し、県内経済を担う次世代産業の創出を目指す拠点です。
主に、創業を目指す方との個別相談や創業に関するセミナーなどを実施しています。
個別相談では、コンサルタントや中小企業診断士等のコーディネーターが幅広く創業に関する相談を受け付けています。相談は無料で、コーディネーターの在籍状況をHPで確認し、メール等で気軽に申し込むことができます。
相談者は男女半々くらいで、30代~40代の方が多いとのことです。長野県への移住者や移住希望者の方が相談に来ることもあるところが特徴的だと感じました。
相談内容は、起業してみたいが何から始めたらいいかわからないといったものから、具体的な起業計画に関するものまで多岐に渡ります。きっちりとした事業計画書などがなくても相談可能とのことです。
相談を通じて各コーディネーターが事業化に向けたアイデアのブラッシュアップをサポートしていきます。
また、月に2回程度、先輩起業家や支援家によるセミナーやミートアップセッションも開催しています。
セミナーは、起業のヒントとなる体験談や、創業時や新規事業立上げ時のアドバイス、成功事例などのテーマで開催されます。
ミートアップセッションは、参加者が事業アイデアを先輩起業家や支援家に対してプレゼンし、フィードバックを貰うイベントです。直接フィードバックを貰うことにより、アイデアの事業化や事業拡大をより効率的・効果的に進められます。
さらに「スタートアップサタデー」というワークショップも開催しています。コーディネーターが、アイデアの種からビジネスプランを作り上げるまでの過程を1日の中で伴走支援するワークショップで、原則土曜日に開催されます。
SSSは設立以来多くの方が利用しており、年間500~600件の相談を受け付けており、SSSによる支援を受けた創業数は累計148者にのぼっているとのことです。SSSの取組により、確実に創業のすそ野が拡大していると感じました。
信州スタートアップステーション:https://shinki-shinshu.jp/sss/
信州スタートアップステーションでお話を伺った後は、長野県庁での意見交換です!
長野県庁は、JR長野駅からバスで5分ほどの距離にありますが、今回はSSSから15分程歩いて行きました。
この日は雪がちらついていましたが、県庁の後ろにも雪をかぶった山々が広がり、とても綺麗でした!
長野県庁の標高は371.5mで、都道府県庁の中で最も標高が高い場所にあります。第2位の山梨県庁とは約100mの標高差がある圧倒的第1位です。ちなみに東京都庁は34.9mで第13位と、意外と順位が高めです。
▼長野県庁に到着しました!▼
意見交換は、企画振興部総合政策課、DX推進課と産業労働部の皆様にご対応いただきました。
お忙しい中、お時間をいただき誠にありがとうございました。
今回は、東京都が実施する連携事業をご紹介するとともに、長野県のスタートアップ支援やDX推進に関する施策等についてお話を伺いました。
【スタートアップ支援】
山や温泉やリゾートのイメージが強い長野県ですが、もともと製造業が盛んであり県内総生産の約3分の1を占めています。豊富な水と澄んだ空気という地域特性に適したカメラや腕時計などの精密機械や、プリンター、記録媒体などの情報機器類の製造も盛んです。
一方で製造業が強い産業構造であるため、新規の創業が少ないという課題がありました。
こういった課題認識のもと、長野県では、「日本一創業しやすい県」を目指して、①経営人材育成、②オープンイノベーションの促進、③資金調達支援の3つの切り口でスタートアップ・起業支援を行っています。
①経営人材育成では、意見交換の前に伺った信州スタートアップステーション(SSS)がその役割を担っています。SSSは、相談受付やセミナーの開催等を通じて、創業への機運醸成や情報収集・仲間づくりの場として機能するとともに、相談者のビジネスアイディアの具体化を支援しています。
また、「信州アクセラレーションプログラム」という、創業後間もない企業に対する3か月間の集中的伴走支援プログラムも実施し、成長の加速化を図っています。支援内容は、ビジネスモデルのブラッシュアップや広報戦略の立案支援等など幅広く、各企業のステージや直面する課題に合わせて弁護士、会計士、投資家等の専門家や先輩起業家によるアドバイスを受けることもできます。
平成30(2018)年度に支援を開始し、令和6(2024)年度までの間に累計38社を支援してきました。
②オープンイノベーションの促進では、ビジネスコンテスト等のイベントを開催しています。
「信州ベンチャーコンテスト」は、産学官金が連携して開催する高校生から社会人までが対象のコンテストで、令和6(2024)年度までに過去11回の開催実績があります。アントプレナー教育の一環として、「信州を元気にする」新たなビジネスプランやビジネスアイデアを発表する場を提供し、プランやアイデアの実現を促進するとともに、若者の創業意欲の向上を図っています。支援機関と連携した高校生向けセミナーやSSSによるビジネスプランのブラッシュアップセミナーも開催されます。
「信州ベンチャーサミット」は、「起業家魂を信州から世界へ」を目指して毎年開催しており、令和6(2024)年度で13回目の開催となりました。新たなビジネスや更なる高みへ挑戦しようとする起業家が事業や構想をプレゼンテーションし、資金調達や事業連携を図る場を提供します。
信州ベンチャーコンテスト2024の様子をYouTubeでご覧いただけます!:https://www.youtube.com/watch?v=Ava_05l0a_g
③資金調達支援では、令和4(2022)年に官民連携により設立した「信州スタートアップ・承継支援ファンド」が大きな役割を果たしています。本ファンドは、次世代産業創出を目指す企業に対する創業初期段階の金融支援や、優れた技術・ノウハウを有する県内企業の事業継承支援を目的としています。出資は県内の金融機関によって行われ、長野県は投資先企業に対して販路開拓や支援機関等とのマッチング等の地域性を踏まえたサポートや、県外企業への広報等の支援を実施します。
既に令和4年設立の第1号ファンドの投資組入れが完了したため、令和6年には早くも第2号ファンドが設立されました。現在は19社に出資が行われており、県内の創業や事業継承の促進による地域経済の活性化を図っています。
また、長野県では、女性起業家の支援にも力を入れています。SSSに女性起業支援窓口を設置し、女性コーディネーターに相談できる体制をつくっています。県内の各地域で女性起業家同士が情報交換できる女性起業家コミュニティの構築支援や連携も実施しており、「Biotope(ビオトープ)」というコミュニティが活動しています。
このほかにも、創業支援に関するポータルサイト「SHINK!」の開設や、YouTube等での積極的な情報発信など、様々な取組で支援を行っていることも伺うことができました。
このような県を挙げた取組により、平成23(2011)年に全国46位だった長野県の会社開業率は令和5(2023)年度には31位まで向上したほか、なんと県内のスタートアップが平成30(2018)年~令和5(2023)年の5年間で約8割も増加しています!
ひとつひとつの取組が着実な成果につながっていて、とても素晴らしいと思いました。
信州で起業する人のためのポータルサイトSHINK!:https://shinki-shinshu.jp/
【DX推進】
長野県企画振興部DX推進課では、行政分野のDXや空モビリティの推進等を所管しています。
まずは、行政分野のDXについて伺いました。
生産年齢人口を中心とした人口減少下において行政を効率的に運営していくには、市町村のDX推進が必須です。
しかし長野県においても、県内77市町村のうち人口1,000人未満の自治体を始めとする小規模自治体では、情報システム担当者が1人しかいない、所謂「1人情シス」状態であることが多く、DX推進における課題となっています。
これを受け、長野県では令和6(2024)年度から各市町村へのDX推進に係る支援を開始しました。
まず、市町村の状況を把握するため、県内の全市町村のDX推進に係るアセスメント調査を実施しました。
各市町村からのDX推進の進捗状況についての回答を元に、100点満点で評価を実施しました。評価項目は、人員体制や情報システム担当の育成状況、DXの方針の作成状況、システムの標準化への対応状況など、多岐に渡ります。得点をつけることで、満点に近い自治体からほとんどDXが進んでいない自治体まで、市町村によって進捗にかなりの差があることが可視化されました。
続いて、市町村への人材派遣による伴走支援を実施しました。アセスメント調査の結果を元に支援が必要と判断した自治体を中心に、令和6年度は22市町村(2市、5町、15村)に対し支援を実施しました。
支援内容は、総務省の「自治体DX全体手順書」に基づき、Step0のDXの認識共有・機運醸成から、Step3のDXの取組の実行まで、市町村の状況に応じて段階を踏んだ支援を行います。
市町村への技術的な伴走支援は委託による外部人材が実施しますが、県庁職員の方も、支援する自治体の首長を事前に全て訪問し、DX推進への協力を依頼したり、自治体と委託事業者の仲立ちをする等して、伴走支援が円滑に進むようサポートしているとのことです。
DX推進の第1歩として、DXとはイメージの遠い人と人のつながりや協力が重要である、という点がとても意外性があり印象的でした。
長野県DX Webサイト:https://sites.google.com/union.nagano-map.lg.jp/nagano-dx/home
【空モビリティ事業】
続いて、空モビリティ事業についてもお伺いしました。
長野県の山岳高原は、観光上の大きな魅力である一方、急峻な地形により、物流や移動などの面で課題となっています。
長野県では、山岳県の魅力と課題に向き合うため、160以上の産官学団体が参加する「信州次世代空モビリティ活用推進協議会」において、信州「空モビリティ×山岳高原イノベーション」創出ビジョンを策定しました。ビジョンでは、ドローンや空飛ぶクルマ等の「次世代モビリティ」利活用を通して、最先端技術を育み、自然や環境と調和し、安心・便利で豊かな暮らしと魅力あふれる山岳高原を目指すこととしています。
このビジョンに基づいて、令和6(2024)年度は、ドローンの活用・マッチングを促進するプラットフォームの構築や、空飛ぶクルマの実現に向けた環境調査などを実施しました。また、昨年10月には白馬村で「信州次世代"空"モビリティ体験フェスティバルin白馬」を開催し、長野県内で初めて空飛ぶクルマの飛行実験が行われました!イベント開催を通じて県民の方の空モビリティに対する理解促進を図り、ドローンや空飛ぶクルマの活用を推進していくとのことです。
東京都の「東京ベイeSGプロジェクト」では、ベイエリアを舞台に、50年・100年先までを見据えたまちづくりを構想しており、先行プロジェクトの1つとして「次世代モビリティ・空飛ぶクルマ」の実装化に取り組んでいます。
長野県は、「東京ベイeSGパートナー」に登録していただき、本プロジェクトにおいて東京都と連携いただいております。
空モビリティの活用について更に連携し、共に実装化を推進していければと期待しております。
信州「空の移動革命」!:https://sites.google.com/union.nagano-map.lg.jp/nagano-dx/airmobi
今回はスタートアップ支援とDX推進を中心に長野県の先進的な取組をお伺いすることができ、充実した意見交換になりました。
また、他の様々な分野で連携の可能性を探っていきたいとのお話をいただき、大変ありがたく存じます。
お忙しい中ご対応いただきましたこと、重ねて御礼申し上げます。
今回の訪問では、意見交換、現地視察ともに大変有意義な訪問となりました。
東京都は、全国各地との共存共栄を目指し、引き続き幅広い分野で連携を進めていきます。
次回の訪問レポートもお楽しみに!